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「うるう」追記② マジルの孤独

「うるう」の追記第二弾です。
ネタバレしてます。
今回はマジルの視点から考えてみました。マジル視点だとヨイチ視点より更に児童文学っぽくなるなあと思いました(当たり前か)。
空白の部分を勝手に想像で埋めているので、考察というよりは二次創作に近いかもしれませんが、それでもよろしければどうぞ。

マジルはクラスの人気者で「選ばれた存在」。仲間外れにされて余るヨイチとは違い、みんなの輪に交じることができます。しかし、ヨイチとは違う種類の孤独を感じていたと思います。クラスメイト達は彼のことを「マジルさん」と呼び、子分のように彼に従います。彼等の関係はどう考えても対等ではありません。

おそらくマジルはクラスメイト達に対して分け隔てなく優しかったのでしょう。クラスメイト全員と仲が良かったけれど、その中に本当の友達と呼べるような特別な人は一人も居なかった。だから、ヨイチに「自分も余っている」と言ったのだと思います。マジルもある意味では余っているのです。
マジルにはクラスメイト達があのプーチンマーチンみたいな人形のように皆同じに見えていたのではないでしょうか。ヨイチをからかう生徒達にも同じ人形が使われていたのは、余っている人間には集団に属する人間は皆同じに見えるということを賢太郎さんが表現したかったからかもしれません(単にビジュアル的に黒い人形が合うと思ったから使っただけかもしれないけど)。

みんなから期待され、頼られるのは嬉しいことですが、ずっとリーダーの役割を続けるのはしんどいことです。先生やクラスメイト達から期待や注目の眼差しを浴びるのに抵抗を感じる時もあったと思います。もちろん、先生やクラスメイト達には全く悪気はないのでしょうが。
リーダーなんてつまらない、やめてしまいたいと思うこともあったかもしれません。しかし、それを口にしてしまえば、彼の存在理由は揺らいでしまう。だから誰にも言えなかったのではないでしょうか。
心を許せる友達が一人でも居れば、その子にだけは打ち明けられたかもしれませんが。

何をやっても人よりよくでき、与えられていないものが何もないように見える彼に唯一与えられていないこと。それがみんなと同じように扱われることでした。
「この世界のどこかに僕が普通の子でいられる場所はないのかな。」
日常に縛られている彼は、非日常の理想郷を夢想します。

ある日、先生から森に住むうるうの話を聞かされ、マジルは思いました。
「…怖いけど…森に行くのはいけないことだけど…行ってみたい!!!
そこに僕の欲しいものがあるかもしれない……。」
彼は一人で森に行き、ヨイチと出会いました。

ヨイチは不思議なおじさんです。
顔はおじいさんじゃないのに髪は銀色で、つぎはぎだらけのだぶだぶのズボンを穿いています。
森の中で俗世間とは関係なく自由に生きています。マジルの周りにそんな大人は居ません。
偏屈なところはあるけれど、マジルを特別扱いすることはありません。
マジルが知らない植物のことをよく知っていて、マジルの怪我をその知識で治してくれました。

お互いのことが少しずつ分かっていくうちに、ヨイチはマジルが周りから認められているところを、マジルはヨイチの自由さを羨ましく思うようになります。

ヨイチに友達がいないと知り、マジルはヨイチと友達になりたがります。
いくらヨイチに「友達にはならない」と言われても、しつこく友達になろうとまとわりつくマジルが子供らしくて可愛いです。このシーンもテンポが良くて好きだなあ。
ヨイチはマジルが会いに行く度に来て欲しくなさそうな態度を取るけれども、本当に来て欲しくないわけではないことをマジルは分かっていました。
なんだかんだ言っても、自分のことを気に掛けてくれていることを知っていました。
ヨイチが本当は友達を欲しがっていることを彼は見抜いていたと思います。
ヨイチは「余り一」で、マジルは「選ばれた存在」。
でも、求めていることは同じでした。
ヨイチとマジルの共通点は、2月29日生まれだけではなかったのです。
マジルは森で自分の片割れを見つけたのです。

マジルが自分の望みを押し通してばかりいるような我儘な子供だとは私は思いません。普段はリーダーとして周りに気を遣って、自分より周りを優先させていたのでしょう。誰とでも仲良くなれ、誰にでも合わせられる彼には”自分”というものがありません。彼がどんなに断られても自分の意志を貫こうとしたのはこれが初めてだったのかもしれません。他のことは諦められてもヨイチと友達になることだけは諦められなかったのでしょう。

ヨイチに銀色に輝く野菜畑に案内されて一緒に野菜を食べた時、マジルもヨイチに負けないくらい幸福だったと思います。自分のしたことで相手に自分の想像以上に喜んでもらえるって、嬉しいことです。自分のことを好きになってもらえないと、相手が密かに大切にしている物なんて教えてもらえません。自分が今まで努力してきたことがやっと実を結ぶかもしれない。この夜のマジルは興奮してなかなか眠れなかったのではないでしょうか。

クラスメイト達に自分が森に行っているということがばれ、クラスメイト全員が森に行きたいと騒ぎ出した時、マジルは一瞬目の前が真っ暗になったでしょうね。
──どうしよう…僕のせいだ…。行くなって言いたいけど、言ったらこの空気を壊すことになっちゃうし…それにみんな僕が何度も森に行ってるって知ってるもん、簡単には納得してくれないよ…。本当のことを言おうかな、それとも嘘をついた方がいいのかな……ああ、駄目だ。言えない…。
クラスメイト達に囲まれ、笑顔を張り付かせたまま固まっているマジルを私は想像しました。クラスメイト達の行動や台詞から考えれば、彼等がマジルからヨイチのこともマジルが森で何をしているのかも聞かされていなかったのは明らかです。マジルはノーと言えない子供だったのではないでしょうか。

我に返ったマジルは、まずはヨイチに知らせなくてはと思い、クラスメイト達に自分より後から森に来るように言い残し、急いでヨイチの所に駆け付けたと推測します。

マジルがヨイチに相談したところ、ヨイチもおろおろし始め、逆にマジルにどうしたらいいかを聞いてくる始末(おい!)。マジルはヨイチにうるうの格好をさせてクラスメイト達を追い払い、彼等を二度と森に近づかせないようにする作戦を思い付きました。二人はそれを実行し、見事クラスメイト達を追い払うことはできたのですが、結果的に一緒にいることができなくなってしまいました。

マジルは自分のことを責めたでしょうね。ヨイチは「マジルは悪くない」と言ってくれましたが、マジルは自分の無力さが悔しくて情けなくてたまらなかったと思います。
自分が森に行かなければヨイチは森の奥に逃げずに済んだ。
うるうの格好をして追い払う以外に何かいい方法があったのではないか。
事態を改善するだけの知恵も力も勇気も子供である自分にはなかった。
後悔と自己嫌悪の念は次から次へと湧き出てきます。

自分がしたことは結局ヨイチを傷付けただけだった。
みんなと同じように年を取って死んでいくことのできない彼の孤独を深めただけだった。
この出来事は彼の心に刺のように突き刺さり、残り続けるのでした。

別れ際にマジルがヨイチに言った台詞。これは観客一人一人の想像に委ねられていると思いますが、私は 「一人で苦しまないでよ!!何とかして一緒にやっていこうよ!!!」と言ったのではないかと考えています。でも、絶対にこう言ったはず!という確信を持っている訳ではないです。マジルの言葉を聞いたヨイチははっと驚いたような表情を浮かべていました。その発想はなかった、というような。この時のヨイチの表情と前後の文脈から考えると、これが私が今のところ考えられる台詞のベストであるというだけです。他にもいくつか候補はあったのですが、どれもいまいちしっくりきませんでした。
ヨイチの四年に一度年を取る話と「そう思っていれば友達になれたかもしれないな。」という台詞の間にマジルが一体何を言ったか。 …まあ、絶対に答えを見付けなきゃいけないという訳でもないと思うので、パズルのように色々な台詞を当てはめて楽しむことにします。

最近かなり久しぶりに宮沢賢治の「風の又三郎」を読み返したのですが、
うるう≠ヨイチ ― マジルという関係が、「風の又三郎」の
又三郎=(?) 高田三郎 ― 一郎、嘉助をはじめとする子供達という関係にちょっと似ているなあと思いました。
三郎との出会いと別れが子供達の通過儀礼だったように、ヨイチとの出会いと別れもマジルにとっての通過儀礼だったのではないでしょうか。

マジルは転校生なので、高田三郎(異邦人)でもあります。クラスメイト達から見て。そして、ヨイチから見ても。
自分の属する世界とは違う世界からやって来たマジルのもたらしたものは、ヨイチにとって大きかったと思います。マジルが去った後の彼は、同じことをしていても以前とは様子が違いますよね。今まで一人でしてきたことを心から楽しめなくなっています。ヨイチはマジルを無理やり忘れ、それと同時に自分自身までどこかに置いてきてしまったような空っぽな状態で長い年月を過ごすことになりました。

マジルは子供の頃からの夢を叶え音楽家になってからも、ヨイチのことを気にしていたと思います。 ずっと友達として付き合っていこうと思っていた人を守ることができず、失ってしまったわけですから、簡単には忘れられないでしょう。

マジルは、次に会う時には絶対に友達になるんだという思いでヨイチを探し続け、40年後にヨイチの住む森にたどり着きました。チェロを演奏し、ヨイチに呼びかけるマジル。それに応え歌い始めるヨイチ。二人はやっと再会して友達になることができました。

ヨイチが彼を受け入れた時に彼の棘は抜けました。自分を許すことで過去から解放されたのです。
ヨイチを救うことでマジルもまた救われたのだと思います。