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欲望と勇気

3連休の最終日、映画を二本続けて観て来ました。どちらもネタバレしていますので、未見の方はご注意下さい。

グスコーブドリの伝記

ブドリがいつも素直で一生懸命で…、ええ子やな〜と思いながら観ていました。人の役に立つ仕事がしたいって、今時の子供は言わないと思うし、見開かれた目の曇りのなさといったらもう!吸い込まれそうになりましたよ。妹ネリとのやり取りも可愛らしかった。家族揃っての夕食のシーンがハウス名作劇場のようでした。今ああいう台詞を喋らせることってアニメでも殆どないんじゃないかなあ。

目のギラギラした男が妹を攫うシーンが、なんか安っぽかった。大事なシーンなのに…。もうちょっと何とかならなかったかなあ…。

てぐすをかけるための梯子が伸びる所、こうやって伸びるのかあ、とちょっと感動しました。宇宙のようなてぐすの森で、作業員達がふわふわ浮かびながらてぐすの球を投げるのを観ていると、頭がいい感じにぽやーんとなってきます。ずっと見ていたくなる。工場で機械の動きもよかった。蛾が大量に羽化し、ブドリが気が付いたら外で倒れていたというところが原作とは違うのですが、これではてぐす工場で働いていたのが夢だったようにも思えてしまいますね。夢と現実との境目を曖昧にするために変えたのでしょうか。

ブドリが赤ひげの所で働くシーンが私は一番好きです。赤ひげのぶよんとしたお腹に触りたい!あの耕運機欲しい!!動かしてみたい!!!楽しげに働く二人はだんだん親子のような関係になっていきます。虫を殺すため沼ばたけに入れた石油の量が…、入れ過ぎじゃないか?明治時代にはこうやって虫を駆除する方法が実際にあったらしいですね。ブドリは赤ひげから与えられた本を読んで勉強し、得た知識でオリザを病気から守りました。もちろん赤ひげは大喜び。勉強ってこうあるべきだよなあ…。

時々ブドリは幻想の世界に迷い込み、妹を必死に探すのですが、会うことはできません。塔のエレベーターに母親が乗っているのを発見しましたが、見失ってしまいます。幻想の世界にうようよ居る変な形の人間達。ちょっと千と千尋の世界に似ていると思いました。死の匂いが原作より濃厚に感じられます。銀河ステーションは生と死の狭間の駅ですし、妹を攫った男は死神のようでしたし、ブドリが裁判にかけられた理由を考えると…。ブドリはあの世とこの世を行き来していたと考えるのが自然ではないかと思います。

多分、父も母も妹もみんな亡くなってしまったのでしょう(原作では妹は生きている)。

冷害による飢饉で自分のような思いをする人が出ないように、自分をいつも支えてくれている人達の為に、ブドリは妹を攫った男に連れられて、火山を噴火させるためにカルボナード火山島に向かいました。その後火山は噴火し、気候はだんだん暖かくなり、畑には作物が実り、人々は豊かに暮らしました。うう…ブドリ…(´;ω;`)

自分の身を投げ出して誰かの為に何かをする勇気は美しいですし、今の日本に一番欠けているものだと思います。
でも、ひょっとしたら、ブドリは死に場所を求めていたのかもなあ、とも思いました。

ヘルタースケルター

思いやりに溢れたグスコーブドリとは真逆の映画です。この映画で描かれているのは、綺麗になりたい、みんなから注目されたい、認められたい、愛されたいなどという自分の欲望ばかりです。

冒頭で全身の包帯を解かれる主人公のりりこ。ニナ・ハーゲンの叫びにも似た、けたたましいソプラノがよく似合います。

売れっ子モデルのりりこは、違法な全身整形をして今の顔と身体を手に入れたという秘密を抱えています。彼女は大衆が見たいものを見せ、言って欲しいことことを言うことで彼等を魅了します。演技も歌も上手くない、バラエティで気の利いたことの一つも言えない彼女にあるのは美しさのみです。彼女の価値は移り気な大衆によって支えられています。彼女の立場は吹けば飛ぶようなもので、いつ彼等に見放され、忘れられるか分かりません。りりこは自分を支持してくれる彼等の存在を非常に欲していますが、同時にとても憎んでいるし、軽蔑してもいます。

りりこの人気は、生まれながらに美しい後輩のこずえの台頭により下降していきます。整形手術の副作用で痣が身体のあちこちにできるようになり、メンテナンスを受ける間隔は短くなり、薬の量もどんどん増えていきます。おまけに自分の幸せを保証してくれるはずだった高級ホテルの御曹司は、政治家令嬢と婚約。りりこはだんだん追い詰められて、心身共に壊れていきます…。

人々の注目を集め続ける人間の不安定さ、傲慢さ、孤独。人形のように完璧な美貌。りりこを演じられるのはやはり今は沢尻エリカだろうなあと思います。とにかく美しく撮られています。美しさは力だ、と言わんばかりに。彼女は久々の映画出演ということもあってか、役柄に入り込み、熱演していました。しかし、原作のりりこ程のしぶとさ、貪欲さは感じられませんでした。個人的にはもっと性格悪くてよかったと思う。りりこの魅力は自分の欲するものを追い求める過剰さにあるのだから。

りりこの美貌を崇拝するマネージャー羽田を映画ではりりこより年上の設定にしているのですが、それもアリだな、と思いました。りりこに酷い目に遭わされても、あたしがいなきゃダメなんだよね、と彼氏に嬉しそうに話すMっ気のある女性を寺島しのぶさんが好演しています。羽田の彼氏は原作よりも更にだめんずでした。桃井かおりさんの演じる事務所の社長も、りりこに対する複数の思い(自分の果たせなかった夢を実現する装置。事務所の商品。自分の娘のような存在。)が一人の人間の中で複雑に同居していて、原作よりも厚みのあるキャラクターになっていて凄く良かった。

岡崎京子の漫画は言葉がシャープで詩的でかっこいいのですが、映画ではモノローグやナレーションを使用せず、それをりりこや他の登場人物に声に出して言わせたり、原作にはないシーンを作ってそこで表現しています。その工夫は分かるのですが、残念ながら原作以上のものにはなっていなかったですね。

それから、大森南朋さん演じる麻田検事のタイガーリリーの冒険がなんたらかんたらいう台詞が似合わなかった。漫画では違和感がなくても映画だと浮いてしまう台詞ってあるんだなあと思いました。
原作の麻田検事とりりこが夢とも現ともつかぬ場所で出会い、心を通わせ合うシーン。あれを入れて欲しかった。あれがないと、彼が鉄のカーテンを破るためにりりこのスキャンダルを利用しただけに思えてしまう。原作の二人は似た者同士で惹かれ合っているけど決して結ばれぬスリリングな関係で素敵なのに…。

バラエティ番組のセットに大きな目玉が現れて動き出すのにりりこが怯えるシーン、あれはいらなかった。

記者会見の前にキンちゃんに特殊メイクをしてもらうシーンで、マイケル・ジャクソンの名前(原作ではエリザベス・テイラーの名も)が出てくるのですが、マイケル・ジャクソンもまた、大衆の勝手さに翻弄されたスターの一人ですよね。大衆にあることないこと噂されて叩かれ、面白がられ、死んだら手のひらを返したように神格化された彼の姿が、記者会見前後のりりこと重なります。

記者会見でのりりこの衝撃のシーン、あまりグロいと気分悪くなったり帰っちゃったりするお客さんが続出するからあれが限界なのかな…。漫画とは違って映画だとグロくなく印象的に見せるのは難しいですね。ちょっとブラックスワンっぽい演出。

今までいじっていなかったパーツを犠牲にして、りりこは新たな変身を遂げます。
その後のビルに貼られたりりこの伝説の写真集の広告、あれは余計だったと思う。

監督がもともと写真家で、モデル業界のこともよく知っているのか、映画の中にリアリティがありました。俳優さん達も頑張っていました。でも、やっぱり原作と比べると生ぬるいかなあ…という感じでした。
原作が傑作なので、それでも楽しめましたが。