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いくぞ、9番!

規制の厳しい現在では作ることのほぼ不可能な映画の話をしようと思う。タイトルは「太陽を盗んだ男」。

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]

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森茉莉が随筆で絶賛していたのと、高校の頃演劇部の友人が「かっこいい男が見たいならこれ!」と言っていたのを何年か前に思い出して観てみたら面白くて興奮した。それ以来、お気に入りの映画である。

この映画はとにかく色んな意味でとんでもない。戦争、被爆者、原発天皇、警察、政府、学校、マスコミ、色んな方面に喧嘩を売っている。原爆という重いテーマが扱われているが、所々にコントっぽい軽妙な荒唐無稽さがあり、多少の粗はあっても、力強さと勢いで最後まで観客をグイグイ引っぱって行ってくれる。

何考えてんだか分からない飄々とした主人公はジュリーにぴったりだし、文太さんも信念を持った昭和の骨太な警察官を演じていて文句なしにかっこいい(ギャグかと思うくらいの不死身っぷりだけど)。

原爆を作ったはいいが、それと引き換えに何を要求すればいいのか分からない。
私が生まれる前に作られた映画だが、主人公城戸の心境は今の若者の方が共感できると思う。      「何がしたいんだ、お前は…。彼が自分自身に繰り返し問いかける言葉が痛い。

教師になりたての頃の情熱はとうに消え失せ、やる気のない理科教師として半ば死んだように毎日をやり過ごす城戸。生徒達にフーセンガムというあだ名を付けられ、馬鹿にされてもどこ吹く風。でも、どうせなら何かデカいことをしてから終わりたいという思いはずっと心の奥底に持ち続けていた。それが、バスジャック犯、そして山下警部との出会いによって、とうとうはじける…。

それから、彼は一人で黙々と原爆作りに取り掛かる。目を光らせ作業に没頭するその姿は、学校にいる時とは別人のようだ。不謹慎かもしれないが、原爆を作る工程は観ていて楽しかった(そこがこの映画の怖いところなのかもしれない)。

原爆の完成後、彼は喜びのあまりボブ・マーリーの曲をBGMに一人祝杯をあげ、ガイガーカウンターをマイク代わりにして歌い、踊る(頭にタオルを巻き、レインコートみたいなのを着て、地下足袋履いて、無精ひげ生やしてるのに妙にかっこいい)。その様子はとても楽しそう。だが、同時に彼の孤独をひしひしと感じてしまう。

彼は当時の核保有国である8つの国に続く9番目の男「9番」と名乗り、政府に様々な要求をする。今ではほとんど見かけなくなった公衆電話が活躍する。彼が電話をしている時、オネエ口調だと言葉がスラスラ出てくるのに、自分本来の口調で話そうとすると途端に言葉が出てこなくなるのが非常に印象的だった。彼は様々な要求をすることで山下警部やDJのゼロ、社会と関わりを持とうとする。山下警部は9番が城戸であると知らないうちから9番のことを理解していて、彼と二人っきりになった時にも彼の望みをズバリと言い当てている。

強大な力を持つ原爆はやはり一教師の手に負えるものではなく、放射能はじわじわと城戸の身体を蝕んでいき、要求は城戸の当初の思惑とは裏腹にエスカレートしていく(要求するものに一貫性はない。行き当たりばったり)。
そして…。

ラストの城戸のアップの後の暗転で、私は城戸と一緒に自分の中のモヤモヤを葬り去るのだ。
この映画を観た私以外の人は、あのラストに一体何を感じ取ったのだろうか。