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「ロールシャッハ」感想(壁の彼方に)③

KKPには登場人物が全員ボケの作品が多いです。マトモそうに見える人物も、話が進むにつれて次第に壊れてめちゃくちゃになっていきます。

全員がボケじゃないのは「トライアンフ」、「うるう」、そして「ロールシャッハ」です。「トライアンフ」はボケ(夏歩香)が一人、ツッコミ(メイドと執事)が二人の組み合わせです(トライアンフはどっちでもないな。というか、存在感が薄い)。この組み合わせだと、ツッコミの力の方が強くてややバランスが悪いです(あのメイドと執事のキャラクターは好きだけど)。「うるう」はボケとツッコミを一人でこなすピン芸人方式。今までのKKPの作品の中では「うるう」が演劇的色合いが一番濃い作品だと思います。
以下ネタバレです。


「ロールシャッハ」は、ツッコミが富山で、ボケが串田、壺井、天森。
1人+3人と言う組み合わせの物語を挙げてみると、
西遊記、桃太郎、三銃士等。非常にバランスが取れています。

「ロールシャッハ」を観終わってから、音楽と踊りのじゃんじゃん出てくる賑やかな映画が観たくなって、そういう映画ばっかり観ていたのですが、観た映画の中で一番ロールシャッハに近いと思ったのが、「オズの魔法使い」です。この映画もまた1人+3人の組み合わせです。
オズの魔法使いもまた何らかの欠落を抱えた弱い存在である登場人物達が 力を合わせることで大きな力を発揮し、最後に自分の中にもともとあったものを再発見するという話です。オズはかかしに大学の卒業証書、ブリキ男にハート型の懐中時計、ライオンに勲章を与えますが、そんなものなど与えられなくても彼らに欠けていると思われていたものはもともと彼らの中にあったし、ドロシーも伯母夫婦の居る家へ帰りたいという強い思いがあれば、簡単に家に帰ることができたんですよね。
ロールシャッハの登場人物をオズの魔法使いの登場人物に置き換えるとこのようになります。

富山→ドロシー(両親が揃っていない。家族に関する悩みを抱える)
串田→かかし(自分の考えがない。人の気持ちを考えない) 
壺井→ブリキ男(相手のことを思いやれない) 
天森→ライオン(勇気がない)

串田が東農業地区在住、壺井が西工業地区在住で鉄工所を経営しているところにもオズの魔法使いの登場人物との共通点を感じます。それから、串田、壺井、天森が登場する順番もオズの魔法使いと一緒です。

違うのは「オズの魔法使い」はきっちりと正義と悪に分かれているのに対し、「ロールシャッハ」では正義と悪に分かれているのはパーセントマンのような架空の世界だけということ。現実は複雑で訳の分からないことだらけです。正義の反対はもう一つの正義で、絶対的な正義も絶対的な悪も存在しない。だから天森はパーセントマンにのめり込むのだと思います。彼は予想外のことだらけの現実に怯えているのだから。

壺井は怒りっぽいです。怒りをぶつければ相手が自分を遠ざけるようになることは分かっているが、分かっていてもコントロールできない。一度外に出してしまった怒りをすぐに収めてしまってはカッコがつかないし、自分が負けたような気もする。自分が怒ってばかりいるせいで従業員はすぐに辞めてしまう。寂しい。だけど自分は何も悪くないし、間違っていない。あっちが悪いんだから謝る必要はない。そう思っているせいで、ますます人は彼から離れて行き、鉄工所の経営は悪化していく。ストレスはどんどん溜まり、彼はますます些細なことで怒るようになる。そんな悪循環があって、彼はあんなに怒りっぽくなったのではないかと想像しました。

ニートの天森は、心配性で気が小さい。予想外のことが起こるのが怖くてSFの世界に逃げてばかり。お母さんには我儘を言えるのでしょうが、家の外ではすいませんを繰り返し、いつもおどおどしています。SFの世界には彼を傷付けるものは何もありません。本を開けば、そこには素敵な仲間に囲まれ、自分の能力を思う存分発揮して活躍できる魅力的な世界が待っています。布団の中でお菓子を食べながらずっとSFの世界に浸っていたい。しかし、変われるものならば変わりたい、そういう思いはあったと思います。彼は現実で味わった恐怖と外から入って来る情報とを混ぜ合わせて想像を膨らませ、社会に出て行くことがとてつもなく困難なことだと思い込んでいるのでしょう。自分で壁を作ってしまってるんですよね。想像をいくら膨らませても現実にはならないのに。

串田は生意気で調子のいい若者。こう言えばウケるんじゃないか、注目してもらえるんじゃないかと思っているのか、人の気持ちも考えずにダメ出しをしてばかり。攻撃的なことを言って相手をやり込めることができると、自分が優位に立てた気がしてスッとするのでしょう。しかし、そういう自分自身は何者なのかというと、文句だけは一人前だが自分からは何一つ始めていない空っぽな存在。自分の責任も周りのことも考えずに言いたい放題の彼の立場は物凄く不安定です。彼に友達は居るでしょうが、おそらく信用されてはいないと思います。

富山はこの中では最年少なのに一番落ち着いています。最高司令官を父に持ちながらも母子家庭で育ち、苦労しています。彼にとっては父のため、母のために生きることが全てでした。だからサーカスの曲芸師になる夢も諦めました。今回の任務に就いたのも父や母に認められるためですが、その内容は自分の良心には反すること。壁に大砲を撃つのをやめたい気持ちは心の奥底にあっても、両親はどう思うかということと、開拓局の隊員としての自分の立場を考えれば、自分を曲げるのも仕方がないこと。貫けば開拓局から間違いなく咎められるし、もし壁の向こうから攻撃があれば、こちら側の人間を危険に晒すことになる(まあ、壁に向けて撃ったら撃ったで、相手が撃った弾と衝突したらとんでもないことになるかもしれないし、戦争になる可能性もあるので、リスクがないわけではない)。
富山は葛藤しています。彼は人のことを考えるのは得意ですが、自分のことを考えるのは苦手です。三人の言葉をきっかけに彼は自分自身と向き合うことになります。

四人はそれぞれコンプレックスを抱え、どこか居心地が悪そうです。自分は誰からも必要とされてないかもしれないという不安を抱えています。それでも自分のことを認めて胸を張って生きたくて、作戦が決行される前までずっともがき続けていました。

壁を撃つか撃たないかで悩んだ末、真上に撃ち上げるシーン。ああいう土壇場というのはバラバラになっている人達を一つにする力がありますね。一人では抱えきれない大きなものを全員で分かち合い、助け合うことにより、彼等はちょっとだけ強くなれたと思います。四人の心の中にあったのは壁の向こう側の人達を信じたい、傷つけたくないという思い。自己犠牲ではなく、ただ単純に自分達の望むことをやっただけです。

その後富山は開拓隊を辞め、次はサーカスへ就職しようと考えています。今回の作戦で父親と母親のために生きる人生以外の選択肢が自分の中にできて、本当にやりたいことをやろうという気持ちが芽生えたのでしょう。彼のこれから進む道は今までのように安定してはいません。ジャグリングも腹話術もまだまだ下手です。なので曲芸師として成功するかどうか分かりません。でも、彼は親中心の考え方から離れ、曲芸師になる道を自分の意志で選んだのです。
今度は失敗したら誰のせいにもできませんよね。全て自分のせいです。
いずれにせよ彼は親を一度捨てた方がいいと私は思います。

世界の果ての壁。あれは色々なものを象徴しています。
ロールシャッハテストのようにその人の心理状態、立ち位置、見る角度で全く違ったものに見えるものです。

国境
乗り越えるべき壁
自分の殻
人間関係
自分の一面
自分を守るもの

警戒していると、相手からも警戒されます。こちらが嫌な奴だと思っていると、相手からも嫌な奴だと思われます。相手に酷い仕打ちをすれば、やり返されます。心を開いて笑顔で相手に接すれば、相手も笑顔になってくれる。相手は自分を映す鏡ですね。相手から信じてもらいたければ、まず自分から相手を信用する(裏切られることも覚悟の上で)。分かっているけど忘れやすいことだなあと思います。

自分の短所は自分の長所とコインの裏表のようなものです。壺井は頑固だけど確実な仕事をする。天森は怖がりだけど怖がっている人の気持ちが分かるし、慎重に仕事をする。串田はお調子者だけど、ノリがよくて思い切りがいい。それらは自分と他者とを区別する壁、個性でもあります。

自分とはかけ離れた理想を描くからそれが壁になる。それが途方もないものに思え、どこから手を付けていいのか分からなくなる。選択肢が少なくなる。目の前に壁があったらまずは自分自身をちゃんと見つめてできることからやってみる。最後に「練習するかー。」と言った富山のように。それこそが克服の糸口を見つける方法なんでしょうね。魔法のように一気によくなる事は現実には殆どないのですから。それは地味でしちめんどくさくてつまらなくて、いつ終わるかも分からないことです。しかし、そうして地道にこつこつ頑張っていれば、いつか壁を越えられる日が来るかもしれない。私はこの作品を観てそう感じました。

「ロールシャッハ」のあのカラフルな舞台装置。どうしてあんなデザインにしたのか考えてみたのですが、私がこれかな、と思ったのが、イッテンのペンタードという配色。
トライアド配色は色相環上を3分割する位置の3つの色相を用いた配色のことを言うのですが、これがロールシャッハでは赤青黄に当たります。色相環上を正三角形にとるので、 安定感のある配色になります。このトライアドに白と黒を加えた配色がイッテンのペンタード。これを図に表したものが、三角錐を二つ合わせた形で上下が対称になっているところがロールシャッハっぽいと思いました(厳密に言えば赤青黄だけでもそれぞれ2種類ずつあったと思うけど)。
%、ロールシャッハの世界、パーセントマンの本、登場人物の名前、空包実包の箱。「ロールシャッハ」の中でシンメトリーになっているものを探してみるのも楽しいですよ。

今日の午前1時に拍手を頂きました。有難うございました<(_ _)>