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LIVE POTSUNEN 2013 P+①

役者は観客がそこに存在しないつもりで役を演じます。
観客は舞台でどんなことが起こっていようとも、決してそれが自分達の身に降りかからないという前提で舞台を覗き見ています。

この第四の壁(舞台の正面にある、舞台と客席を隔てている空想上の見えない壁)を壊し、舞台と観客の予定調和の関係を崩すことによって、現実を変えていく試みをこれまで様々な人達がしてきました。劇場ではなく街中で芝居をしてみたり、観客の存在をほのめかすような台詞を言ってみたり、実際に観客に話しかけてみたり、観客の身体を触ってみたり…。

賢太郎さんもこれまで第四の壁を意識して作品を作ってきたと思います。古くはアカミー賞とか、countとか。最近では「ロールシャッハ」以降の舞台にそれがよく表れていると思います(「うるう」は賢太郎さんが3.11より前から温めていた作品らしいですし、賢太郎さんの作品の中でも特殊な作品だと思いますので、ここでは「ロールシャッハ」以降の作品にはカウントしないことにします)。あ、もしかしたら「The SPOT」からかもしれないなあ。客いじりをする賢太郎さんがもの凄く新鮮に感じられたんですよね。

今回の「P+」ですが、私はこれまでの作品と比べ、随分と風通しが良くなったという印象を持ちました。
簡単に言うと、壁→建物→街 という感じ。
「P」で言葉を封印することで鍛えられたことが「P+」では活かされていました。観客が五感から感じ取れることをもの凄く意識して、細かいところまで気を配っているという印象を受けました。

「ロールシャッハ」に登場する壁、あれは色々なことを象徴していましたし、もちろん第四の壁のことも象徴していました。あの大仕掛けで舞台上の世界と客席側の世界とを綺麗にひっくり返してみせていたわけです。
「P」でも壁は登場します。ロールシャッハの時とは違って壁にはドアや窓があり、壁のこちら側と向こう側を行き来し、コミュニケーションを取れるようになりました。賢太郎さんが客の靴を値踏みしたり、窓から客席側を覗き返したりするシーンがありましたね。

そして「P+」。「P」では建物だったものが街へと変わり、とうとう客席全体を飲み込んでしまったのです…。


あとはネタバレです。未見の方はご注意を。

■ オープニング

これまでのPotsunenシリーズの映像がマジックの映像に挟まれてスクリーンに映し出されます。
手の奴が歩き出し、スクリーンが上がるとそれがパッとポツネン氏に変わります。手の奴とポツネン氏の入れ替わりが鮮やかで、思わず見とれてしまいました。赤い幕が開き、開演。

舞台装置はポツネンシリーズでは初の二階建て。だまし絵のような段々の付いた白い舞台装置です。ドアと窓には実際に開け閉めができるものと、木枠をそれらに見立てているものの二種類があります。

■ 日本検定

うそつきくんばりのでたらめな嘘だらけの日本検定。タングラムを使い、検定の問題に合った形を作ります。
賢太郎さんの所作が美しかったです。指の先にまで神経が行き届いていました。
内容はほぼ「P」と同じだと思います。最後に最前列のお客さんの靴を虫眼鏡でじっと見て、靴の価値に気付くと慌てて土下座する点が違いました。

幕間映像〜封筒を届けに

油絵で描かれた楽屋が背景。ドアから腕時計を付けた腕がにゅっと出てきて、腕時計の時間を指し示します。ポツネンは封筒を毛虫に渡します。ポツネンから封筒を受け取った毛虫は、封筒を何者かに届けに外に出ます。ポツネンが窓から外を見ると、そこには無国籍な街が広がっています。

建物の外に出た毛虫がセットの高い所にある道をトコトコと歩いて行く姿が可愛かったです。 

■ し〜っ(タイトルうろ覚え)

本棚から取り出した本を読み、にやにやする男。彼は静かに本を読みたいのに、周りからは様々な音が聞こえてきます。電話のベル、足音、踏切の音、犬の鳴き声、工事の音、ドラムの音、水滴の音。
男は何か音が聞こえる度にその音を止めに行きます。いくつもの窓を開け、ドアを開けて。
下手のドアから入ってきて上手のドアから出て行った足音は何だったのでしょう。座敷童子?透明人間?

水漏れする蛇口。あれはイライラしますね。心当たりのある蛇口、元栓をしめてみても、しばらくしたらまた水の滴る音。何が原因か分からないっていうのは人を不安にさせます。
結局叩いたら直っちゃいましたけど。何だったんだろう一体。

あるドアの向こうに居る存在を「P」では恐れていた男は、今回はそれに何度も殴りかかります。しかし、いつも相手に殴り返され負けてしまいます。彼はそれでも懲りずに戦いを挑み続けます。握手して和解したかと思ったらまた喧嘩。どうしてもドアの向こうの何かのことが気になって仕方がない様子。

ドアに挟まっている横木を切り、バーンとドアを開けた時のジョジョ立ち!決まってました。
レーザートラップを突破してドアから出て行くと、別のドアから男の代わりにゴーグルを付けた手の奴が登場。手の奴のおかげでスパイ映画並みのアクションが可能になりました。その後再び男が現れ、赤外線をプチンと切ってしまいます。遊び心満点です。ようやく電話を見つけてしーっと言って電話を切っても一向にベルは鳴り止まない。あわれ電話機は溜まった水の中にぶくぶくと沈められてしまいます。

「P」では「し〜っ」としか言わなかった男は、今回は犬に対してだけ「うるさい!」という言葉を使います。まあ、「うるさい」なら、強い口調で言えば日本語が分からない相手にも意味は何となく伝わると思います。多分犬にも伝わるでしょう。犬もご飯とか散歩とかダメとかお手とか簡単な単語なら理解しますからね。それに、犬は言葉が分からなくても自分が褒められているのか怒られているのかくらいは、人間の声や表情等から読み取れます。だから、「うるさい」は日本語でもフランス語でもハナモゲラ語でも何語でもいいんだと思います。
最後、吠えている犬に向かって「うるさい!」と言った男は、誰かから「しーーーーっ!」と言われてしまいます。

■ 漫画の奴

「P」よりもっとバカバカしく、そしてもっと漫画っぽくなっていて良かったです。賢太郎さん身体を鍛えたんでしょうか。静止している時のふらつきが少なくなっていました。
 
音符(♪)にアイスを食べられてしまった男。彼は舞空術を使い、逃げる音符に追いつきます。
そして、音符と男のバトルが始まります。動きがいかにも少年漫画の動きでした。よく観察してるなあ。

男がかめはめ波を出すと、音符から手足が生えます。そういえば、音符のことをおたまじゃくしって言いますね。ショックを受けた男は楳図かずお先生風の顔に。怒った音符は旗の部分をアイスラッガーのように投げつけますが、賢太郎さんはワイヤーアクションでゆっくりよけます。これがバカバカしいし、よくできていました。男も攻撃を受けると四本の腕の化物に変身します。私は観ていてフリーザや戸愚呂弟などのジャンプ黄金期の敵キャラが頭に浮かびました。変身する前の暗転やいかにもな擬音が効いてました。変身しても顔は賢太郎さんのまんまなのが怖い((((;゚Д゚))))

男の攻撃を受け、音符は数を増やして散らばります。音符を叩いたり蹴ったりすると音が出ると気づいた男は、ドラム代わりにそれらを叩き始めます。すると、窓が開き「しーっ」の男が登場。「しーっ」と言われた男は、窓に向かってかめはめ波を打ちます。ここが「しーっ」とリンクしているわけですね。これは「しーっ」とは逆の視点から見た世界の話です。

音符と再会した男はアイスをペンを持った手に描いてもらい、音符と一緒に食べようとします。その時運悪く音符の投げた旗が戻ってきて、二人はそれをよけようとしてアイスを落としてしまいます。ショックを受ける二人(楳図かずお風)。その後、顔を見合わせてやれやれ、と肩をすくませます。戦っていくうちに友情が芽生える。強敵と書いて「とも」と呼ぶ。実に少年漫画的です。

幕間映像〜さまよう青年
ドアの隙間から差し込まれた封筒。灰色のパーカーを羽織った青年が封筒を開けると、中から出てきたのはチケット。チケットに記載された電話番号に電話してみるも、電話に出た男に「しーっ!」と言われてしまいます。これも「しーっ」と繋がっています。

青年はチケットを持って街を彷徨います。
高い位置のドアから出てきて歩いていると、不揃いな格子の入った木枠を発見します。
青年は「あ、地図だ」と言います。しかし、この地図では目的地に辿りつけません。
劇場全体を大きな街の影がゆっくりと上下しながら移動していきます。どうやらこの街は生き物のように変動しているようです。この影が何とも不気味で、「P」では綺麗に拡散していたポツネンシリーズならではの不安とか孤独感が幻想的な形で表れているような感じがしました。

この後、何かに化かされているかのように何度も似たような道を通る青年。これがまあ、不気味で不気味で…。考えてみれば、私もこの青年と似たようなもので、実は自分の意志でやっていることなんてほとんどないのかもしれないですね。何かや誰かに呼ばれたり動かされたりしていることの方が多いのかも。

彼は格子状の枠を見る度に色々なことを言います。

「あ、漫画だ。どういう順番で読めばいいんだろう。」
漫画は右から左へ、上から下へ読んでいく約束事で描かれています。まず一番上の段の右から左へ読み、左端に到達したら右斜め下へ視線を移動させ、次の段の右から左へ読む。ちょうどアルファベットのZを逆にしたような形でジグザグに視線を移動させて読んでいくのが基本です。しかし、この漫画はコマが小さくて多いですし、配置も変なので、読んでいると浮いてしまうコマが出てきてしまいますね。

青年は漫画を読み、「音符がアイスを食っている‥‥ 自由なマンガだなあ」と言います
この漫画は「漫画の奴」なのですね。 

次に「変わったレンガの積み方だ…。」

その次に「複雑な間取りだ…何L何D何Kなんだろう」迷子になりそうな物件ですね。
最後にこの枠がショーのポスターであると気づいた青年。

青年が街を見上げると、上の建物の窓にポツネン氏の姿。おお\(・o・)/!この映像が上から下にゆっくりと移動しながら目に入ってくると、自分が街の中に吸い込まれてしまいそうな気がして、鳥肌が立ちました。看板には韓国語や中国語で書かれているものもあって、屋根にはシャチホコ。そんな風景が西洋の技法である油絵で描かれていました。

外国人から見た日本ってのはこんな感じなのかもしれません。何となく印象派の画家が模写した日本の浮世絵のような感じがしました。日本人が見ても外国人が見ても何となくエキゾチックな感じがする、どこでもあり、どこでもない街。フライヤーやシールセットに出てくる店もちゃんとありましたよ。


<続く>