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リリイ・シュシュのすべて

気が触れてしまいそうなほどの暑さです。いかがお過ごしでしょうか。
もう学生さんは夏休みですね、羨ましい。まあ、私は働きますけどね。一番の理由はお金を稼ぐためですが、働かないでいると自分の輪郭がぼやけて溶けて地面に吸い込まれてしまいそうなのでね。

高校の夏休みに古文で作文を書くという宿題が出たことがありました。めんどくさかったんで題材を吟味する気にもなれず、適当にお盆の頃のことを書いて提出したら、教育委員会の人が来た日の古典の授業で丸々使われたことがありました。今までの経験上、余計なことを考えずに力を抜いて書いたものの方が周りからの評判がいいようです。何かの文集に載ったり、人から褒められたことがあるのってそういうものだけです。頑張って工夫しながら書いて、自分なりによく書けたと思ったものが受けたことなんか一度もないですね。きっとそういう文章には、こちらの受けたいといういやらしさが滲み出ているんでしょう。では、力を抜いた状態を意識して作り出せるかというと、作り出せない。テクニックでカバーできるほど上手くもないしなあ。ていうか、高校の頃からあんまり文章上達してないと思う。うーん…(。-_-。)

夏休みになると映画「リリイ・シュシュのすべて」を思い出します。

リリイ・シュシュのすべて 通常版 [DVD]

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一面に広がる田んぼの緑色と心地よい気だるさのある麻薬のような音楽、狭く閉鎖的な世界で壊れていく少年少女。HP・MP共に満タンの状態で挑まなければきついので、今までに2回くらいしか観たことがありませんが、それでも私の心に強烈な印象を残している映画です。これを中学生の頃に観ていたら、心に大怪我しつつもきっと自分の不幸に重ね合わせて陶酔してただろうなあ。こういう救いのなさを美しく描いている作品にどっぷりと浸っていた時期がありました。私はこの映画を大人になってから観たので割と突き放して観ることができましたが、それでも古傷がズキズキと痛みました。

この映画に出てくる中学生達はみんなキラキラしています。若い役者さん達の魅力のせいか、まだ社会に出ることはできないけれど身体はもうほぼ出来上がっていてエネルギーも有り余っている、ある程度の知識はあるけど心はまだ未熟、そんな危うい時期ゆえの輝きか。

今自分を取り巻く環境が絶対であり、永遠に続くものと大抵の人が思っています。でも、そうじゃない。世の中には無数の世界や価値観が存在します。今自分が所属しているちっぽけな場所における価値観がどこでも通用するなんてことはないし、その価値観も時間が経てば変わっていくものです。私は今までに色んな土地を転々としてきたので、それを身をもって知っています。

優等生だった星野は不良グループのリーダーとなり、それまでは友達だった主人公蓮見をえげつないやり方でいじめるようになります。原因は父親の経営する会社の倒産による一家離散でしょうか。沖縄での出来事をきっかけに彼の中の何かがはじけ、攻撃的なエネルギーを上手く飼い慣らすことができないまま、暴力のもたらす一時の全能感に酩酊していきます。彼のことを恐れて従う者はたくさん居ても、あっちの世界に行ってしまった彼を引き戻してくれる者は周りに誰も居なかったのです。荒れ果てた田んぼでリリイの歌を聴きながら吼える姿が泣いているようで悲しい。

いじめられる者といじめる者の関係になった蓮見と星野は、カリスマ的人気歌手、リリイシュシュのファンサイトでは管理人フィリアとハンドルネーム青猫として、お互いの正体を知らずに心を通わせています。それが悲劇を呼びます。家の外だけでなく、家の中でも蓮見は浮いた存在です。母親の関心は新しい夫と連れ子に向けられています。そんな彼の居場所が自ら主宰するリリイのファンサイトだったのです。

蓮見は星野に命令されて売春をする津田に連帯感を抱いてはいたのでしょうが、彼女からのSOSを受け止めきれませんでした。やがて津田は自殺します。彼女が汚い川へ入っていけたのは、自分が汚れてしまったと思っていたから。鉄塔の周りを鳥のように飛ぶカイトと自殺した津田の対比が衝撃的で、あざといとは思いつつも心をグッと掴まれてしまいました。

男子から人気のある久野は女子に嫉妬され、彼女達にけしかけられた星野の手下にレイプされます。久野に嫉妬する女子、久野を呼び出す蓮見、久野をレイプする手下、裏で手を引いている星野、どいつもこいつも最低です。蓮見は星野グループに所属し続けるために自分の憧れだった人を犠牲にしました。それだけ彼にとって星野グループに所属することは意味のあることだったのです。そこに居たって酷い目に遭うだけなのですが、それでもそこから排除されることは彼にとって耐え難い恐怖だったのでしょう。星野は自分の手下にも人を破壊させることで、自分をも破壊しようとしていたのではないでしょうか。

多くのファンの心をエーテルで満たしていたリリイシュシュは、結局現実では何の救いにもならなかったのです。リリイのコンサート当日に会った星野が青猫だと気付いた時、蓮見の安住の地は現実に浸食され、彼の神様だったリリイは彼の心の中で死にました。精神的に追い詰められた彼はコンサート後の人混みに紛れて星野を刺し、コンサート会場の外を血で染めてしまいます。蓮見の破壊衝動を止められる存在もまた居なかったのです。

襲われた後に自分の頭を丸刈りにして登校し授業を受ける久野の気丈さだけが唯一の希望かなあ。彼女だけが終わりに手を伸ばして救われようとせず、他人を暴力で支配しようともせず、自分の尊厳を守って生きることができました。ラストで久野の弾くピアノを聴く蓮見。今となってはもう彼と彼女との距離は遠いのです。蓮見は津田や星野のようにリリイを信じたまま永遠になれなかったし、今のところ久野のように現実に立ち向かってもいない。これからどう生きていくんでしょうかね。

学生の頃に戻りたいって言ってる人って私の周りにも結構居ますが、私はごめんですね。二度とあの頃には戻りたくありません。考えるだけでも息が詰まります。トラウマだらけの私の中学生の頃の記憶はかなりおぼろげです。ちょうどエアポケットのようになっています。人間の脳ってよくできてるね。今特に幸せというわけじゃないけど、不幸ではない。だから今がいいです。自分の所属している所に縛られて、こだわって、そこから離れてものを考えられないのは不幸だと思う。まあ、人には不幸になる権利もあるんだし、好きでやってんなら勝手にすればって思うけど。私はそういうのはやめました、それだけの話。

ああ、それにしてもこの頃の市原隼人は線が細くて可愛い。蒼井優はこの頃から光ってるなあ。忍成修吾は私の中ではずっと星野のイメージのまんまです…。