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悪霊−下女の恋−

そぴあしんぐうで「悪霊−下女の恋−」を観てきました。私にとって初の松尾スズキさん作演出の舞台でした。
ドライで病的にはっちゃけているのに繊細。そんな印象を持ちました。
内容はかなり重たいですよ。呪いや因縁、血の繋がりの恐ろしさがウィルスのように広がっていくのを感じ、背筋が凍りつきました。それなのにバカバカしくもあるんですよ。所々に散りばめられている小ネタに笑ってしまうんですよね。ブラックなユーモアたっぷり。下ネタ満載。右翼、病気、堕胎、不倫、殺人、死、容姿、とにかくタブーに触れまくる。スーさん(三國連太郎)、西村賢太米良美一葉加瀬太郎清水圭、りょう、ほしのあきなどの実在の有名人を使ったギャグもありました。悲しいこともギスギスしたこともとにかくギャグにして笑わせてしまうなんて、松尾さんは勇気があるなあ・・・。

舞台の上手に二階建てのウネハラ家、中央には庭があり、下手に風見鶏の付いたとんがり屋根が地面から顔をのぞかせています。冒頭で音楽が鳴り始めると黒地に赤い花模様の着物の女性が慌てて家から出てきて、とんがり屋根によじ登ります。彼女の正体はそのうち分かります。

ウネハラ家の息子タケヒコは、学生時代からの友人ハチマンとお笑いコンビを組んでいました。売れない芸人の二人はようやくTV番組のレギュラー出演のチャンスを掴みます。その矢先にウネハラ家にタケヒコの婚約者ナミエがやって来ます。タケヒコはそれまで母親のキメと二人暮らしをしていました。キメはいい年をした息子のことをいつまでも子供扱いする関西のお母さんです。キメは資産家の令嬢で、タケヒコの父親と結婚する時にこの家に実家の風見鶏をとんがり屋根ごと持って来たそうです。この屋根がこの作品の世界を象徴しているに私には見えました。
この作品の登場人物達はみんな取り繕います。誰もが秘密を抱え、相手の秘密に気づかないふりをして、負の感情を内側に溜め込んでいます。表向きは平和で幸せで何の問題もないように見えるけれど、見えない部分にはドロドロしたものが根深く蔓延っているのです。

TV出演を目前にしてタケヒコは井上の頼み事を引き受けるために外へ出て交通事故に遭い、車椅子で生活するようになります。それでもナミエはタケヒコと結婚しました。ハチマンだけが芸人としての活動を続けますが、彼のエスカレーション芸はタケヒコなしには成立しないため、評判はよくありません。キメは甲斐甲斐しくタケヒコの身の回りの世話をしています。タケヒコのリハビリのため、積極的に自分の胸を掴ませます(タケヒコは相手の胸を後ろから掴むと立って歩けるようになる。男の胸でも可)。タケヒコを演じる三宅弘城さんの体の動きが凄かったです。特に足と腰がありえない動きをしていました。

キメの夫、つまりタケヒコの父親は植物の研究をしていましたが、研究の成果を本にはせず、趣味の鉄道模型についての本を1冊出しただけです。しかも、他所に女を作り子供を産ませていました。それがハチマンです。タケヒコとハチマンは実は異母兄弟なのです。キメは夫を憎んでいるのに彼に似たハチマンのことをなぜか可愛がっていました。

タケヒコは井上から頼まれてホームページを作り、次は井上からテーマソングを作るよう頼まれています。彼は悪霊とインターネットを通じて交流しており、契約を交わしたそうです。

キメは夫を憎むあまり彼の本を処分し、彼が植物の研究の場にしていた裏山を売ってしまいます。裏山を買ったのは鉄道会社で、しばらくすると裏山を電車が走るようになります。それが鉄道模型のように見えることに怒ったキメは買ったばかりの電動自転車に乗って抗議しに行き、電車に轢かれて死亡してしまいます。ああ、鼻パックさえしていなければ…。

その後、家政婦兼助産師のホキがウネハラ家にやって来ます。タケヒコのことを心配したキメが生前に家政婦紹介所に依頼していたのです。ホキは気味が悪いくらいにキメにそっくりです。まるでキメが若返ったみたいです。ホキもキメも広岡由里子さんが演じています。ホキはハチマンに恋をした途端に家政婦らしい衣装からピタピタのTシャツとショートパンツに着替え、ルーズソックスを履き、歌を歌い踊り始めます。これが微妙にぎこちなくって可笑しい。存在感抜群。広岡さんの怪演が光る場面です。

ハチマンはナミエとこっそり肉体関係を結んでいます。ハチマンはこれまでもタケヒコの好きな女性を何人も奪ってきました。ハチマンをいてこます代わりに女をいてこましてるわけです。本妻の子で、自分よりもお笑いの才能があり、結婚もしているタケヒコに対して心のどこかでコンプレックスを抱いているのでしょう。ナミエのことを好きというよりはタケヒコのことが気になってしょうがないんでしょうね。こういう三角関係は大好物です(笑)

ナミエを演じる平岩紙さんは可愛くて肌がほわっと白くって、触れなば落ちんという言葉がぴったりでした。ワンピースってエロい服だったんですね…。風見鶏のように自分にとって都合のいい方へなびくナミエ。いつもニコニコしている彼女のどこまでが計算でどこまでが天然なのか分かりませんでした。ただ、彼女はハチマンに向かって怒鳴り散らす前からハチマンが自分を何があっても愛して守り抜いてくれる男ではないと分かってたんだろうなあ。出会ってそんなに経ってない段階で彼のことを自分と同じで薄いとか言ってましたし。この「薄い」には親戚関係が薄いという意味以外の意味が込められていると思います。

ナミエはハチマンの子を身ごもってしまいます。殺生をすると身体にミミズ腫れができる体質のハチマンは堕胎を嫌がります。結局お腹の子がハチマンの子であるのを隠すために彼女はタケヒコとも関係を持ちます。運良くそれは成功し、このまま順調に子供が生まれてくるのを待つばかりかと思いきや…。

ハチマンは誤って媚薬を飲んでしまい、ホキとも関係を持ちます。ホキに本心を言うように促され、ハチマンはタケヒコを消してまで彼の全てを手に入れたいとは言いませんでしたが、とうとうタケヒコを憎んでることを告白します。それをリハビリから帰ってきたタケヒコは聞いていました。彼は聞いていたのにその場に怒鳴り込みもせず、あとでそれとなく本人に本心を確認してみようともしませんでした。聞かなかったことにしてしまいます。

ホキも妊娠し、これでこの家にいる妊婦は二人になりました。
ハチマンは芸人を辞め、俳優の仕事をするため東京に行くことになります。
その前夜に彼は庭でタケヒコと最後のコントをやり始めます。
姉と弟と執事の米良美一のコント。タケヒコの女装が思ったより綺麗でした。♪張り詰めたー
産気づいたナミエと助産師の資格を持つホキは家の中に入ります。

ハチマンは井上はとっくの昔に引っ越してこの街にはいない、おかしくなってるのはタケやんの方だとタケヒコに伝えます。タケヒコは存在しないものに従っていたのです。タケヒコは子供の頃ハチマンにいじめられていました。ハチマンにいじめられていたもう一人の男子が井上です。ハチマンはタケヒコに「お前は10年後におかしくなっている」と毎日言い続けるように命じていました。しかし、タケヒコが実際に言った言葉は、「10年後に君以外の世界がおかしくなる」でした。当時のタケヒコはどういうつもりでこの言葉を言ったのでしょうね。井上が不幸でなくなることを願って言ったのか、世界がめちゃくちゃになればいいと思ってこの言葉を言ったのか…。

タケヒコはナミエのお腹の子が自分の子じゃないことを知っていました。なぜならあの日子作りは行われなかったから。キメの持っていた道具をナミエに使っただけだから。キメがなぜそのようなものを持っていたかを考えると、タケヒコの父親がハチマンと同じかも疑わしくなりますね。
タケヒコは謝らずにこの状況を笑いに変えるようハチマンに無茶ぶりをしますが、ハチマンは何もできません。突然ホキが風見鶏の屋根の中から発見した拳銃でタケヒコを撃ちます。しかし、鉄のブラジャーをしていたタケヒコは助かりました。

殺伐とした場面で「井上の歌」を歌い、悪霊に挑戦する二人。なんだか笑ってしまうし、ちょっぴり感動もする。フォークソング調のさわやかなメロディで井上だらけな歌詞の歌をハモりながら歌う二人。三宅さんも賀来さんも歌が上手かったなあ。歌い終わるとタケヒコもハチマンを撃ちますが、ハチマンはバナナの皮で滑って弾をよけてしまいます。ここで偶然にもバナナの皮を使ったギャグが完成します。

服を血で染めて庭に現れるホキ。ナミエのお腹の子はあかんかったそうです。ハチマンの身体のミミズ腫れはとうとう顔にまで達し、役者をやれなくなってしまいます。悪霊のいけにえに捧げられたのはナミエの子でした。呪いの言葉は本当になってしまいました。いや、元から壊れていたものがはっきり見えるようになっただけなのかもしれませんね。

死んでも息子のために毎年ヘリコプターを飛ばさせる母親。
タケヒコの頭の中でひとり歩きする井上。
死んだ父親にそっくりなハチマン。
死んだキメにそっくりなホキ。
消えることなく存在する悪霊のようです。

タケヒコの父親はキメに拳銃で撃たれて殺されたのでしょう。冒頭の女性は若い頃のキメですよね。なんだかキメと夫の関係が諸悪の根源のように思えてきました。

カーテンコールには松尾スズキ氏。彼が出てきた途端、お客さん大盛り上がりでした。そぴあしんぐうをトピアしんぐうとか言ってたなあ。松尾さんは福岡出身なんだけど新宮には来たことがなかったそうな。私は新宮の3号線沿いには来るけれども、新宮中央駅の辺りには来たことはありませんでした。あの辺はIKEAのために新しく開発された地域だから土地が広い!電車で行きましたけど車で行った方がよかったなあと思いました。車の方が楽だし、お金も時間もかからないので。
あ、ちなみにあまちゃんに関することは一言も言ってませんでした(笑)
そういう所が松尾さんらしいのかな。